#2 “リジェネラティブ”
目次
- リジェネラティブなものづくりを考える
- リジェネラティブとサステナブルの比較
- リジェネラティブ農業とは
- インドのPratibha Syntexによるリジェネラティブ経営
- まとめ
1. リジェネラティブなものづくりを考える
「study for good」は、「学ぶ者」として消費者と作り手をつなぐ橋渡し役を担う私が「ものづくり」にまつわるあらゆるテーマをピックアップして、皆さんと一緒に学んでいくコンテンツです。
今回のお題は“リジェネラティブ”。近年、サステナビリティについて調べていると、この言葉を頻繁に耳にします。第1回ウェビナー「【アーカイブ配信中】サステナブルの新潮流“リジェネラティブ”をインドの生産者と考える」のテーマとしても取り扱いました。ここではその復習も兼ねて、消費者とものづくりの担い手を跨ぐ私の目線で“リジェネラティブ”について学んだこと、疑問に思うこと…などを綴っていきます。
2. リジェネラティブとサステナブルの比較
“これまでのサステナブル”について。サステナブルという言葉から想像するアクションと言えば、リサイクルや衣料回収。より身近なアクションであれば、節水やラベルレス飲料の購入などが思い浮かびます。サステナブルという言葉が浸透する過程では、「新しい資源をなるべく使わない努力をする」ことが求められてきた印象があります。
一方で、今回のお題である“リジェネラティブ”は、日本語では“再生”や“回復”を表します。
私たち人間の活動によりこれまでたくさんの負荷をかけてきた地球環境はものづくりの土台。リジェネラティブは、この土台ごと今よりもプラスの方向に導いていく概念です。リジェネラティブを理解する上で大切なキーワードのひとつ、地球環境を「最初よりも良い状態にする」こと、これを“ネット・ポジティブ・インパクト”と言います。
2つの概念を比較すると、
*サステナブル〈継続・持続〉はマイナス要素を減らすアクション
*リジェネラティブ〈再生・回復〉はプラスの要素を増やすアクション
と捉えられ、“リジェネラティブ”はどうやら「サステナブルのちょっと先を行く概念」であり、環境配慮の最先端をリードする世界の共通言語として使用されているのかもしれません。
3. リジェネラティブ農業とは
今回リジェネラティブについて調べていくうちに、その代表格とも言えるのが農業だと分かってきました。ファッションにおいても、天然繊維原料を生み出す農業なくして、ものづくりをすることも楽しむこともできません。そんなリジェネラティブ農業の最大の特徴は、ものづくりの土台である生態系へのプラスの影響です。
〈リジェネラティブ農業のネット・ポジティブ・インパクト〉
*化学的農薬を使用せず、人の健康や土壌の生物多様性を守る
*同時に複数の作物を栽培する間作や年ごとに異なる作物を栽培する輪作で、土壌の栄養と作物の品質を維持する
*土を耕さない不耕起農法によって、土壌に多くの炭素などの有機物を固定し、大気中のCO2放出を削減できる
*被覆作物(カバークロップ)の栽培で、土壌を覆い雨風などから土を守る
*トラップクロップの栽培で、作物を虫から守る
*作物を育てる土壌で、動物を一緒に住まわせる
オーガニック農業と比較し、リジェネラティブ農業の場合は有機農法を大前提としており、その上で土壌・生態系に積極的にプラスの影響を与えるアクションが求められている印象を受けました。
これらのアクションを知ってから、これまでなら聞き流してしまった話題からリジェネラティブな要素を発見できるようになりました。例えば、「ウール」に関する社内勉強会に参加したときのこと。羊毛は生分解性があり、さらにケラチンというタンパク質で構成されていて、羊の生育過程で抜ける毛を野菜や果物を育てるための肥料として活用できると学びました。ウール生産の理解が深まるとともに、思いがけないタイミングでリジェネラティブを結びつけられ、今回学んだコットンだけではないリジェネラティブの全体性に興味が出てきました。
4. インドのPratibha Syntexによるリジェネラティブ経営
第1回目ウェビナーにご協力いただいたインドに拠点を置くPratibha Syntexは、リジェネラティブ界のパイオニア的な存在。ROA(Regenerative Organic Alliance)によるROC認証(Regenerative Organic Certified)を取得しており、リジェネラティブ・コットンの栽培と衣類生産を行っている会社です。ここでは、土壌や動物など生態系への影響に加えて、間作や輪作、トラップクロップとして育てた作物の販売で得られる利益を、綿花収穫以外の時期に農家の副収入としており、人や地域へのネット・ポジティブ・インパクトをもたらすリジェネラティブ・ビジネスを実現しています。
さらに、コットンの紡績過程で生まれたノイル(短繊維やごみ)と家畜のフンからバイオマス肥料を作りそれを農家が正規価格で販売するサポートをすることや、郊外地域の民族に農業指導をしたりすることで、地域経済の活性化にも繋がっています。まさに、リジェネラティブ・コンサルタントと言えるのではないでしょうか。
※Bio Resource Center
コットンの枝など服づくりに不要な部分(Organic waste)や、捨てずにオーガニック肥料にして活用。肥料は、正規価格で販売。
Pratibha Syntexの例の他、福祉施設の労働支援や、多種多様なビジネスを展開することによるモノカルチャーからの脱却なども、人や地域への影響に含まれる可能性があります。
5. まとめ
分からないなりにたくさん調べてみましたが、リジェネラティブはサステナブルよりも「地球環境が相互に繋がっている」ことをより意識した考え方だと私は理解しました。
冒頭で、リジェネラティブは「サステナブルのちょっと先を行く概念」と表現しました。もう一度よく考えてみると、サステナブルとリジェネラティブはどちらかがもう片方より優れているのではなく、補完し合う関係で、両方の概念で実現できるアクションをひとつずつ考えてくことが、ものづくりの担い手としても消費者としても要求されているはずだと再認識しました。
そして、リジェネラティブを説明するときに、“Giving back to the earth”の言葉が最適ではないか、と感じています。開設記念動画「Textile Exchangeとファッションの未来」の中でディスカッションをした際に生まれたこの言葉は、「地球環境の再生・回復」を掲げるリジェネラティブについて考えるうえでとてもフィットしている気がしています。
本コラムでも、皆さんとあれこれ考えるうちに、難しい概念でもすっと理解できるフレーズやさらなる疑問が生まれることを期待しています。
プロフィール
執筆
國澤 あや乃(くにさわ あやの)
サステナブルセクションプロダクションチーム。タキヒヨーのものづくりやビジネスに取り組む姿勢に魅力を感じ、2023年入社。「学ぶ者」としての視点から_ for goodに関わり、サステナビリティのプロフェッショナルを目指す。