
「いつでも尾州」はいつでも、どこでも、簡単に、尾州産地のことを学べるコンテンツです。繊維歴3年の私が、尾州産地企業へ訪問し、大先輩のみなさまにインタビューをする本企画。
今回は、中伝毛織株式会社さまを訪問させていただきました。
企画部テキスタイルデザイナーの井出さまに工場内の案内をしていただき、また、インタビューでは企画部チーフデザイナーの大滝さまにお話を伺いました。
中伝毛織さまは、テキスタイルの織り・編み工程を手がけられています。グループ会社の匠染色株式会社さまでは糸染め、藤井整絨株式会社さまでは染色整理を行っており、グループ全体での一貫体制を備えています。
工場内の見学でまず最初に目にしたのが、ステ耳・糸・布(フサ)と札が掛けられたワゴンです。これらはものづくりの際にロスになる部分ですが、中伝毛織さまでは自社で回収し再利用するものづくりも行っています。

「布(フサ)」とは、織物の織りはじめとおわりの部分のこと。「ステ耳」とは、レピア織機で織物が織られていく際に両端で緯糸を保持する部分で、織られながら始末されていく、もじゃもじゃした部分のことです。
特にその「ステ耳」について。特に驚いたのが、再利用を見越したものづくりです。私自身これまでの仕事でマテリアルリサイクルについて勉強してきた中で、単一素材でないと再び糸や生地に戻すハードルが高くなることを学んでいました。中伝毛織さまでは、生地企画の時点で、耳の部分がウール100%になるように工夫することで再利用しやすいようにしている生地もあるとお教えいただきました。天然素材は合成繊維に比べて糸が切れやすく、さらにウール100%にすることで稼働率が落ちてしまうという課題がありながらも、リサイクルできる設計を優先されている点に、ものづくりへの強い信念を感じました。

続いて、中伝毛織さまが導入されている最新の「レピア織機」について。レピア織機は、「レピア」という部品がヨコ糸を持って織機の両サイドから飛び、真ん中で受け渡す織機です。通常レピア織機というと、レピアで引っかけるように糸を受け渡す「消極レピア織機」が主流です。一方、中伝毛織さまでは「消極レピア」に加えて、世界3大織機メーカーのドルニエ社による「積極レピア織機」でのものづくりも行われています。「積極レピア織機」は、レピアで糸をしっかり掴んで受け渡す点が特徴。
レピアにも得意不得意があります。例えば、太番手のファンシーヤーンと細番手の糸を緯糸に使用する場合、糸の太さのギャップがありすぎることで、消極レピアの部品に引っかかり損ねたり、糸切れが生じやすくなるそうです。「糸を物理的にしっかりとつまんで運ぶ」ことでそのような課題を乗り越えられる最新の織機を見ることができました。このように、中伝毛織さまでは、技術と最新機械をもって、バリエーション豊かで複雑な組織の織物を安定して生産することが可能になっています。
続いて、編み機について。丸編み機、横編み機の2種類でのニット生地製造過程を見せていただきました。
特にまるで織物のようにも見えるニットを作れる横編み機は驚きでした。横編みというと、いわゆるホールガーメントという言葉で知られるような製品編みを想像するかもしれません。中伝毛織さまでは、この横編み機を使って、製品編みではなく幅広のニット生地を作れることが特徴だとお教えいただきました。

もちろん、サンプル用の小さな横編み機で製品編みもしており、冒頭でご紹介したような残糸を使用してアップサイクルの小物づくりが行われていました。

また、大滝さまと井出さまが所属される「企画部」について。大滝さまは織物、井出さまは編物の企画をされております。そもそもテキスタイル企画の仕事とは、お客さまが求める生地や自社で作りたい生地を目指して、糸の選定や規格の設定、柄、組織、仕上を考えて生地の設計図を作っていくことです。
大滝さまが語ってくださった「有名なブランドに自分が考えた生地が採用されたり、製品となって店頭に並んでいるのを見る嬉しさは、服を作るだけでは味わえない」という言葉は非常に印象的でした。原料から完成品になるまでの長い道のりの中で、大滝さまと井出さまが携わる生地企画は、その品質を左右する複雑で奥深い工程だと思います。原料の特性、機械の限界、そしてデザインの可能性を深く理解していなければいけないため、心躍る生地の生産背景には、そういったプロフェッショナルの方々がいるからこそファッションを楽しむことができると改めて考えるきっかけとなりました。

中伝毛織株式会社のみなさま、ありがとうございました!
プロフィール

執筆
國澤 あや乃(くにさわ あやの)
サステナブルセクションプロダクションチーム。タキヒヨーのものづくりやビジネスに取り組む姿勢に魅力を感じ、2023年入社。「学ぶ者」としての視点から_ for goodに関わり、サステナビリティのプロフェッショナルを目指す。