下編「タキヒヨー一宮工場」
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「_ for good」のメンバーが、さまざまな”ものづくりの在り方を学び、価値の再発見をするシリーズ企画「ものづくりの源流を訪ねて」。
第1回目となる今回は、世界三大毛織物産地として知られる「尾州」の活性化を目的としたイベント「ひつじサミット尾州」に密着したレポートを全3回にわたってお届けします。
3回にわたる連載最後となる下編では、私たちタキヒヨー株式会社が2014年に設立した一宮工場(英式紡績機 | Material & Scheme | TAKIHYO FOR GOOD(タキヒヨー株式会社のサステナブルサイト))の見学に密着します。
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タキヒヨー一宮工場は、後継者問題に直面していた紡績工場から設備と人を引き継いだことに端を発します。他にもいくつか同様の問題を抱えた工場から機械を受け継ぎ、それらを集約して2014年に設立したのが一宮工場です。
一宮工場の最大の特徴は、「英式紡績機」。現在の紡績のほとんどは「仏式(フランス式)」となっており、英式(イギリス式)の紡績手法は産業革命の頃に生まれた旧式のものです。時代の流れとともに、より効率的に、より均質な糸が求められるようになり仏式が主流となっていった結果、英式紡績機はほとんど姿を消し、今となっては本国イギリスでは博物館に展示されるほど。この希少価値の高い英式紡績機でものづくりをすることで、他にはない唯一無二の生地を生み出すことが可能になっています。
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一宮工場では、原料となる綿(わた)を混ぜ合わせるところから工程が始まります。綿繊維をくしけずりながら並行にそろえる工程を進め、そこからゆっくりと撚りを加えていきます。オイルを加えながら、できるだけ繊維にストレスをかけずに撚りを加えることで、ふっくらとした独特の風合いを表現することができるのです。
質が「均一」であることや「コストパフォーマンス」を求められる時代だからこそ、あえて対極の手法を貫くことで、タキヒヨー「ならでは」の価値創造を目指しています。
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年に1回ひつじサミット開催期間のみオープンするファクトリーショップでは、英式紡績機由来の生地や雑貨も販売され、毎回見学者から好評をいただいています。テーラリングを勉強中の福沢さんが見つけたのは、英式紡績の糸を使用したスーツ地。工場にあるだけすべてお買い上げいただきました。この生地でスーツを仕立てるそうです。
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今回初めてひつじサミットに参加したお二人は、「ものづくりを極めるのは生半可ではできないというのがわかった」とおっしゃっていました。
英式紡績生まれの生地を使ったスーツが完成したら見せていただく約束をして、福沢さんと田上さんとの旅は幕を閉じました。
ひつじサミットのオープンファクトリーを巡るツアーでは、繊維の川上から川下まで、通常見ることのできないあらゆる工程を見ることができます。
私たちが普段何気なく身に着けるものの“背景”を知ること、そして、ものづくりに携わる人の手の温度を感じることは、消費者である私たち一人ひとりが「何を選び、何を購入するのか」の物差しを育てることにもつながるのかもしれません。
私たち“作り手”と“消費者”の想いが通い合う“場”を創っていくことが、「ひつじサミット尾州」そして「_ for good」が目指す未来です。
プロフィール
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取材
國澤 あや乃(くにさわ あやの)
サステナブルセクションプロダクションチーム。タキヒヨーのものづくりやビジネスに取り組む姿勢に魅力を感じ、2023年入社。「学ぶ者」としての視点から_ for goodに関わり、サステナビリティのプロフェッショナルを目指す。
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取材
森 康智(もり やすとも)
採用プロジェクトチーム兼広報・IRチーム。2014年に東京大学大学院修了後、新卒でタキヒヨーに入社。新卒採用、キャリアコンサルティングやPRの専門知識を生かし、多様な人々の「問いと語り」によるシナジー創出を目指す。_ for goodのファシリテーター。
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取材・ライター
伊藤 千鶴(いとう ちづる)
広報・IRチーム。社内外の広報、情報発信に長く携わってきた“社内ジャーナリスト”。豊富な執筆、編集経験を生かし、_ for goodでは「中の人」としてライティングなどを担当。